銀行員の融資担当や融資課長の役割と稟議書の書き方
銀行融資を受けるときは、担当者と話をすることになりますが、融資を決定するのは担当者ではありません。
銀行融資に関わる銀行の担当者は、融資担当者と呼ばれる一般行員で、融資を決定するのは支店長です。
担当者と支店長の間には、融資課長がいます。融資課長の決済が出たら支店長に稟議書(りんぎしょ)が周り、支店長の決済が出て初めて融資が決まります。
都市銀行や大手地方銀行では支店長と直接面談するのは、相当大きな会社でないと難しいかもしれません。小さな信用金庫なら比較的簡単に支店長と会えます。
融資をスムーズに勧めるためには、融資担当者やその上司と仲良くなることが大切です。
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銀行融資の流れと融資担当課長の役割
銀行融資は申込みから融資までに数週間かかりますが、これは稟議書(りんぎしょ)の作成やいろいろな人の決済が必要になるためです。
申込者が直接やりとりする営業担当者には決済権がなく、融資課長や支店長または本部の決済が必要になります。
支店長決済で融資が決まるか、本部の決済が必要になるかは、融資の規模や金利、その会社の格付けなどによって決まります。
5,000万円を超える融資や金利2%以下の融資、格付けが要注意先以下の場合などに、本部決済が必要になります。
会社(社長)と始めに対応するのは営業担当者ですが、決済を出すのは支店長や本部になります。
提出した書類や話した内容は、担当者の上司である課長に渡り、課長から支店長へ渡ります。支店長決済の融資なら支店長がGOサインを出した所で融資が決まります。
できれば交渉の際に早い段階から融資担当課長や支店長に同席してもらうのが良いですね。
ただ、小さな企業の初めての融資では、支店長の同席は難しいかもしれません。
本部決済融資の場合、支店長決済が下りた時点で、本部へ書類が渡り、本部が最終的な審査を行い、本部の決済が下りれば融資が決まります。
その融資が支店長決済なのか本部決済なのかは営業担当者が知っています。担当者との関係が密になることで得られる情報もあるので、継続的に融資を受けたいのなら、日頃から担当者と仲良くしておいた方が良いでしょう。
融資の決定権は支店長にありますが、融資担当課長が下した判断に支店長がNOという事はあまりなく、実質的に融資を決めているのは融資課長と言えます。
銀行の課と担当
銀行には営業課、融資課、預金課などの部署があり、銀行融資に関係するのは営業課と融資課です。
銀行融資を受けるときは融資担当者と話をすることになります。
課 | 担当 | 業務内容 | |
---|---|---|---|
営業課 | 渉外担当 | いわゆる営業。会社に来てくれる。 | |
融資課 | 融資担当 | 融資や保証などの貸し付け業務を行う。小さな金融機関では渉外担当と兼務することが多い。 | |
預金課 | 事務 | 窓口業務や伝票処理を行う。女性がほとんど。 |
渉外担当は銀行と会社をつなぐ窓口的な人ですが、小さな金融機関では融資担当も兼務することが多いので、普段から営業の人とは仲良くしておいた方が良いでしょう。
銀行融資の申込みから融資決定までの流れを見てもわかるように、企業が直接やり取りするのは基本的に営業担当のみです。
- 銀行融資の流れ
-
- 企業が営業担当に必要書類を提出
- 営業担当が融資課長に書類提出
- 融資課長が支店長に書類提出
- 支店長や融資課長が営業担当に指示
- 営業担当が企業に審査回答を伝える
融資担当者は、資料の作成や分析、稟議書の作成などを行います。銀行融資は、融資担当者が作成する稟議書で決まるとも言えるので、優秀な担当者に当たれば審査に通る可能性も高まります。
逆に仕事ができない担当者に当たると融資が通りづらくなります。今まで何度も融資を受けていたのに、担当者が変わったことで急に融資が受けられなくなることもあります。
銀行員の肩書と融資関係者
役職 | 銀行融資の役目 |
---|---|
支店長 | 融資の決済権がある |
副支店長・次長 | |
課長・支店長代理 | 実質的に融資を決める |
係長・主任 | |
一般行員 | 融資の担当窓口 |
庶務行員 | |
パート、派遣社員 |
支店長代理は支店長の次に偉そうな名前が付いていますが、実際には、課長と同じくらいの立場の人です。出世街道から外れた40代、50代の人というイメージです。
金融機関では管理職のことを役席と呼ぶことがありますが、融資課の課長や支店長代理の事を融資担当役席と呼んだりします。
融資の決済権は支店長(または本部)にありますが、支店長は融資担当役席が下した判断を覆すことはほとんどありません。実質的に融資を決定しているのは融資担当役席ということですね。
融資課長(融資担当役席)が銀行融資のキーマンです。小さな金融機関の場合、支店長と面談することもありますが、融資課長とのパイプを作っておけば融資が受けやすくなります。
融資課長と仲良くなる方法
- 融資課長と仲良くなる
-
- 融資担当者と仲良くなり課長を紹介してもらう
- 融資課長と顔見知りになり、課長宛に訪問したい事を伝える
- 融資課長から訪問の許可を取る
- 月に一度訪問し関係性を築く
融資のたびに融資担当者を介して融資課長(融資担当役席)と会っても良いですが、融資課長に直接会えるようにしておくと融資に有利な状況が作れます。
その銀行との関係性を築き何度も融資を受けることが前提ですが、融資担当者を介して融資課長を紹介してもらい、許可をもらい直接会うようにします。
既に融資を受けている場合、審査の際に提出した事業計画書通りに事業が進んでいる事を証明する意味で、毎月「月次事業報告書」を提出するのが良いでしょう。月次事業報告書を提出することで、融資課長に会う理由ができます。
融資を受けて月次事業報告書を提出し、融資課長との信頼度を上げておけば、次の融資もスムーズに進みます。借りたお金をしっかり返すのは当たり前ですが、ひいきにしてもらうためにはそれだけでは足りません。
初めての融資申込み
初めて銀行融資の申込みを行う際には、会社の社長や経理担当者が銀行の支店に融資相談の電話を入れます。
どこの銀行でも構いませんが、基本的には会社の住所がある地域の支店に電話するのが良いでしょう。
電話で色々聞いても良いのですが、申込みは書類で行うので、電話では訪問の日時を決めるぐらいにしておき、詳しい話は訪問して聞くのがよいと思います。(場合によっては営業担当者が会社に来てくれます)
初めての融資相談では、借入申込書を提出することになります。この時点では決算書などを用意しておく必要はありません。実際に申し込むと、どのような書類が必要なのかを提示されます。
後日、必要書類を持って融資担当者と面談を行う事になります。面談は1時間ほどで終わります。
提出した決算書などの書類を基に審査が行われ、無事、支店長の決済が下りれば融資が決まります。融資の審査は1~2週間かかるので、余裕を持って申し込むようにしましょう。
融資が決まれば、あとは指定した口座に入金されるのを待つだけです。申込みから入金まで2~3週間ほどかかると思っておいた方がよいと思います。
銀行融資の稟議書の書き方
銀行融資の審査では、支店長や本部が決済を出しますが、支店長や本部は融資担当者から提出される稟議書(りんぎしょ)を見て判断します。
稟議とは、「案を関係者に回して承認を求めること」です。
それなりの規模の会社なら、何かを決める際に稟議が必要になることが多いと思いますが、基本的にはそれと同じです。
支店長なら融資を希望する企業と直接面談することもありますが、本部決済が必要な案件では、本部は書類のみで判断することになります。
融資担当が作成した稟議書が融資課長に渡り、融資課長の決済が下りれば次長や副支店長を通り支店長へ渡り、支店長が決済して融資が決まります。(案件によっては本部が決済します)
稟議書は融資担当者が作成しますが、その元になる資料は融資を受ける企業側が用意するので、担当者に良い稟議書を作成してもらうために、良い資料を用意して、必要事項を担当者にしっかり伝えることが大切です。
なお、企業側が作成した決算書や試算表などの書類は、稟議書に添付され回覧されます。
融資の稟議書に書かれている内容
- 稟議書の中身
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- 企業情報
- 業績、財務内容
- 融資金額
- 融資条件(金利・期間・担保など)
- 返済原資
- 担当者の意見(融資すべき理由など)
金融機関によっても内容が少し異なりますが、作成される稟議書にはこのようなことが書かれています。
稟議書は融資を実行するための判断材料になります。融資が通りそうな企業なら担当者がしっかり作ってくれますが、融資が通りそうもない企業は稟議書を作ってもらえないかもしれません。
審査に通らない稟議書を作ることは担当者の時間を無駄にするだけではなく、それに目を通す融資課長や支店長の時間も無駄にすることになり、担当者の評価を下げる原因になります。
企業や社長は、良い稟議書を書いてもらう為に、日頃から担当者との関係を築かなければなりません。小さな地方銀行や信用金庫の場合、渉外担当(営業)が融資担当を兼ねるケースも多く、渉外担当との関係を良好にしておく事が大切です。
融資稟議書の書き方例
※銀行融資書類&交渉攻略マニュアル(すばる舎)
① | 融資ウェイト | 自行の融資金額が占めるウェイトとシェア | |
② | 資金使途 | お金の使い道。経常運転資金、季節資金、設備資金など | |
③ | 金利 | 融資する場合の金利。格付けが高い会社ほど金利が低くなる | |
④ | 与信・担保 | 与信額(融資額)と担保額の差 | |
格付け | その会社の格付。10~15段階で評価される | ||
科目 | 貸付の種類。証書貸付、手形貸付など |
良い稟議書を作成してもらうために
稟議書を作るための資料は、「銀行融資で提出する決算書」でまとめましたが、できる多くの資料を出すことが大切です。
業績が良くない会社は隠したいことも多いと思いますが、隠したいことはいずればれます。
経営計画書などは必要ない場合もありますが、確実に融資を受けるために提出します。
- 補足資料
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- 決算書、試算表、資金繰り表、経営計画書(事業計画書)などの書類を提出する
- 面談で会社の事業内容や経営計画をしっかり伝える
- 面談で資金使途や希望融資額の妥当性をしっかり伝える
- 日頃から担当者と仲良くしておく
すぐに融資が通りそうな企業なら、融資担当者も前向きに稟議書を作ってくれますが、経営状態が良くない会社の場合、面談での印象や普段の付き合いでだいぶ状況が変わってきます。
普段、担当者に横柄な態度を取っていると、いざ困った時に良い稟議書を作ってもらえないかもしれません。銀行融資は書類で判断されますが、人間性や人間関係も重要になってきます。
銀行融資で借りたお金の資金使途
銀行融資を受ける際に、資金使途(お金の使い道)について聞かれると思いますが、資金使途の種類は大きく分けて「運転資金」と「設備資金」の2つがあり、運転資金は細かく分けることができます。
種類 | 資金使途 | 意味 | |
---|---|---|---|
運転資金 | 経常運転資金 | 企業が営業活動を継続するために必要になる資金。現金、預金などの流動資産にあたる資金 | |
季節資金 | 季節要因で一時的に必要になる資金 | ||
赤字資金 | 赤字を補填するための資金 | ||
つなぎ資金 | 入金予定があるが、その間の資金繰りで必要になる資金 | ||
決算資金 | 役員賞与や納税の為に必要になる資金 | ||
設備資金 | 設備資金 | 工場の新設や本社ビルの購入などの設備投資に使う資金 |
銀行融資において、資金使途を明確にしておき、担当者に自信を持って伝える事が大切です。資金使途を明確にせず「お金が足りないから500万円貸して欲しい」と言っても貸してくれません。
経常運転資金
経常運転資金は、企業が営業活動を継続するために必要になる資金です。
営業を続けるためにはお金が必要です。収入よりも支出の方が多い場合には赤字になるので、現金などがなければ、どこからかお金を調達しなければなりません。
売上債権(売掛金+受取手形)+棚卸資産-買入債務(買掛金+支払手形)
これが経常運転資金の計算式です。これ以外の少額な項目は省略しても大きな影響がありません。
経常運転資金は、売掛けなどのお金を回収するまでの繋ぎなので、通常は3ヶ月などの短期融資が基本になります。
増加運転資金
増加運転資金は経常運転資金の一部ですが、企業の売上が増加したことで発生する資金です。業容が拡大することで経常運転資金が増加しますが、この増加部分が増加運転資金です。
売上が増えれば仕入れも増えます。売上の中から仕入れ分を支払えれば良いですが、物を売るためには品物が必要で、通常は売上の入金前に仕入れ費用が必要になります。
売上が入る前に先行して仕入れしなければならず、一時的に立て替える形になりますが、そのために必要な資金が増加運転資金です。
売上が順調に伸びているように見せかけて、増加運転資金名目で赤字資金を調達する企業もあります。このへんは金融機関もしっかり調査しますが、伸びている企業と勘違いして赤字企業に増加運転資金を融資してしまうこともあるようです。
減産資金
減産資金は、生産量の減少や売上不振などによって発生する資金のことです。
生産量減少や業績不振などで売上が低下すると、固定費などの支払いに充てるキャッシュフローが不足します。
その後、再び売上が戻ってくれば良いですが、そのまま業績が下降の一途をたどるようだと、銀行は貸したお金を回収できないので、融資には慎重になります。
季節資金
季節資金はその名の通り、季節的要因により一時的に必要になる資金のことです。
季節要因がわかりやすいアパレル関係の業種なら、冬物の洋服を作るための生地を夏頃に発注します。夏物の生地は冬頃に発注します。売上があるのは半年後ですが、先に発注しなければならないので資金が必要です。
商品が売れれば返済することができるので、売上代金の回収予定に合わせて分割返済するのが一般的です。季節商品の販売が計画通りにいかず、在庫処分などを行うと、資金が回収できないリスクがあります。
決算資金
決算資金は、決算に伴う役員賞与や法人税の支払い、配当の支払いなどに必要な資金のことです。
1年間の利益から決算資金を用意できれば良いですが、多くの会社は利益の一部しか現金として残しておらず、賞与や納税、配当などの支払いに充てる資金が十分ではない場合が多いです。
決済資金は、本決算と中間決算の年2回必要になることが多いため、融資期間は6ヶ月になるのが一般的です。
夏期・冬期の従業員のボーナスの支払いに使う資金を賞与資金や決算資金と呼ぶこともあります。
設備資金
設備資金は、工場の新設や本社ビルの購入などの事業用設備に投下される資金のことです。
事業拡大の為の設備投資や、新規事業の為の設備投資、研究開発の為の設備投資などがあります。
設備資金は大きな資金が必要となり、返済期間も5年以上と長くなるのが一般的で、一箇所の銀行ではなく、メインバンクやサブバンク、その他の銀行などを合わせて複数の金融機関から借入するケースが多いです。
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この記事の著者(専門家)
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株式会社アルビノ代表取締役。ファイナンシャルプランナー。埼玉県飯能市出身、1978年12月25日生。趣味は登山。Webライター歴23年。カードローン利用歴16年。現在は消費者金融3社、銀行カードローン3社の契約あり。
個人で自動車ローンや住宅ローンを利用したことがあり、起業してからは法人で銀行融資や日本政策金融公庫の一般貸付、マル経融資で借りた経験があります。
FP技能士、宅地建物取引士、日商簿記検定、証券外務員の資格を保有。
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